……。   おお、起動したか!   ……初期起動、成功。 異常ナシ。 シークエンス作動。 マスター登録ヲ行イマス。   私が見えるか、お前の生みの親だ。   ……『マスター』トイウ解釈デヨロシイデショウカ? アナタトノ血縁関係ハ無イノデ、『親』トイウ表現ハ的確デハアリマセン。   ははっ、こいつは参ったな。 ……私は科学者の「ゼクター」だ。 「ゼクター博士」と呼んでくれて構わない。   ……マスター登録完了。 マスター名:「ゼクター」。 呼称:「ゼクターハカセ」。   よしよし、言語中枢も正常だな。 …うん、お前には名前を付けてあげないとな。   …名前?   そうだ、お前の名前だ。 いつまでも「あれ」とか「これ」とか「お前」とか呼ばれたくないだろう?   ……前者2個ニ違和感ヲ覚エタノデスガ。 ……ソレデ、ワタシノ名前トイウノハ?   おお、そうだった。 えーっと、お前は"PSTシリーズ"の1号機だから…。 "PST-001"、コードネームは『Persecutor』。   復唱シマス。 PSTシリーズ1号機、"PST-001"、コードネーム:『Persecutor』。 ソレガワタシノ名前デ間違イナイデスカ?   いいや、お前の名前はまだ言ってないぞ。 お前の名前は、「パース」だ。 今日からその名前を名乗れば良い。   ………理解シカネマス。 ……コードネームノ他ニ名前ガアルナンテ? ヤヤコシクナッタリシナインデスカ?   ……そのうち慣れるさ。           ―パース。 それが、アイツの名前。 戦闘汎用型のロボットで、大量生産されたうちの一機。 私によってつくられた……       ………1つの命。       〜 Story of Solitary scientist 〜       「…ハカセ」 「どうした、パース」 「『ヒト』は、何を思い、互いをキズつけあっているのでしょう?」 「……分からない」 「そこに『メイヨ』があるからですか? ソコに『トミ』があるからですか?」 「………私には、分からないんだ」 「…ハカセにも分からないコトがアルのですね」 「…私とて万能ではない、むしろ私の科学力を狙っている奴らも多い」 「私の科学力を持ってすれば、村1つを吹き飛ばす威力を持った武器だって作り出せる」 「だが、そんな事に賛同する事はできない」 「ナゼですか?」 「……私は同じ『ヒト』を傷つけたくないんだ」 「ハカセハ、どうしてワタシを作ったんデスカ?」 「プログラムニハ、『戦闘汎用プログラム』が組み込まれていマスが…」 「………それさえも分からないかもしれない」 「ただ、私はずっと一人で、寂しかったのかもしれないな」 「…『サミシイ』?」 「ああ、『寂しい』だ。 ずっと一人で心細かったんだ」 「そこでお前を作った。 他の奴とはちょっとだけ違うけどな」 「…ワタシは"PSTシリーズ"デス。 他の機体と相違点ナド…」 「……それもそうか」 「……ソレヨリ、ハカセ」 「どうした、パース?」 「………『レンダー共和国科学技術学会』の会合に遅れマスよ」 「ぬあああああああ!? パ、パース! 留守番を頼んだぞ!!」 「…了解シマシタ、マスター」       「……理解デキナイ」 「何故、アノ人がワタシにあそこマデ執着するノカ」 「同じ機体、同じ要素ヲ持ち合わせてイルノニ」 「何故、1号機のワタシだけ……?」 「…………理解、デキナイ」       「ハカセ」 「………」 「ハカセ」 「……………」 「……」 「ハカセ、いい加減ニ起きないと、学会ニ遅刻シマスよ」 「……………いいんだ」 「…ハカセ?」 「……………私はもう、学会に行けない身になってしまった」 「……見た所、外傷ハ無いヨウですが、どこか具合デモ?」 「……………政府に目を付けられた」 「……政府?」 「ああ、『機械の国』を自称してる割には、私たち科学者に優しくないみたいでな」 「私が戦争に参加するのを拒否したら、学会の席から落とされてしまったよ」 「……戦争、デスカ」 「…はっ、世の中バカばかりだ。 目の前の事しか見えていない」 「ただでさえ資源が少ない国なのに、戦争で何を求めればいいと言うんだ!!」 「………」       「………」 「ハカセ、もうココはキケンです。 ハカセは逃げてクダサイ」 「…何を言っているんだ、あいつらの狙いは私だろう?」 「私が逃げた所で何も変わりはしない」 「デハ、ワタシがハカセの代わりに…」 「いや、それだけはダメだ」 「……何故デス?」 「お前は…、パースは…私の大切な……」     ―ドオォォン!     「!!」 「来たか…」 「居たぞ!! 捕まえろ!!」 「…ッ!!」 「んな、テメェそこを退きやがれ!!」 「パース!! 危ない、逃げるんだ!!」 「イヤ…デス!!」 「ハカセが『ボク』ニ何を執着しているノかは分かりかねマスが」 「ハカセが犠牲にナルぐらいなら、ボク一体の犠牲で済むコトじゃあナイですか?」 「……馬鹿な事を、言うなああああああ!!」 「ハカセ!! 何をスルつもりですか!!」 「君は黙っていろ!!」 「ハカセ!? このシェルターハ!?」 「それは『対爆雷弾用防護シェルター』だ、お前だけでも生き残るんだな」 「おい! ゼクターが何か仕掛けたぞ、とっとと仕留めろ!!」 「無駄だ政府共!! 私はここで研究所と共に散る!!」 「散るって…、ハカセ!? 何をスルつもりデスか!? ハカセ!!!」 「……大丈夫だよ、パース」 「………私もろとも、政府の奴らは焼きクズにしてしまうから」 「大丈夫じゃないデス!! それじゃあゼクターハカセは…!!」 「おい逃げるぞ!! 爆発する!!」       「………『さようなら、愛しき我が子よ』」       ―カチッ       「ぐあああああああああああ!!」 「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」 「ハカセええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!」       「仲間からの応援で駆けつけてみれば、こいつはひでぇな」 「研究所が全焼してやがる…」 「…ん、何だこの鉄クズは」 「………ヨクモ」 「え?」 「………ヨクモ、ボクの『生みの親』ヲ」 「…ゼクターのロボットか」 「知ったことか、少なくとも俺たちには関係ないな」 「……ウルサイ! ハカセは、『セイフ』に狙われていたって言っていた! オマエたちも『セイフ』の仲間ダロウ!!」 「だったらどうするって言うんだ、このポンコツが!」 「――!!」     ―ガシャン!       「おお、パースは絵も描けるのか」 「風景ヲテクスチャシタダケデスガ…」   「パースの作ったチャーハンは美味しいなぁ」 「…最近ワタシ使イガ荒クアリマセンカ?」   「パース、次の学会って何時からだったっけ!?」 「……アト30分シカナイデスヨ、ハカセ」       「…ハカセは」 「あ? まだ生きてやがったか…」 「ハカセは、ボクと一緒に生きてきた」 「ハカセは、ボクに色んな事を教えてくれた」 「ハカセは、ボクと過ごしているとき、凄い嬉しそうだった」 「んなこと知らねえよ、とっとと失せろ!!」 「うるさい!! そんな事も知らないお前らに、ハカセのボクを想う『優しさ』なんて…」 「―!? 逃げ…」 「分かるもんかあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」 「うわあああああああああああああああああああああああああ!!!」             ……もう、歩けない。 研究所も全焼してしまったし、博士は最後まで見つからなかった。 政府の連中はみんなくたばったみたいだけど…。     「…はは、少し暴れすぎたかな」 「……ねえ、ハカセ」 「………僕はハカセと一緒にいる為に生まれたんだよね?」 「だったら何で……」   「僕は大切な人を失ってしまったんだろう………」             「なーんだお前、随分とボッロボロじゃねぇか」 「……誰、だ」 「俺様は『スファリエル』。 『カオスワールド』を創造した天使だからな」 「…ああ、ハカセ。 僕もとうとう天に召される時が来たようです」 「それは別の天使の仕事だからな、俺の管轄じゃない」 「そんなことより、立てるか?」 「………」 「…無理か、まあ仕方ないよな。 その傷じゃあ、相当やり合ったみたいだが」 「……ハカセは、レンダーの政府に狙われていてね」 「僕を作ったのは単純な理由だったんだろうけど」 「僕と博士はいつも仲良く過ごしていた」 「『感情』のない僕に話しかけては、嬉しそうにしていた」 「『表情』を持たない僕に微笑みかけては、楽しそうにしていた」 「『心』がないロボットに、『心』を作ろうとしていたように」 「でも、博士は…。 博士は……!」     「……ああもう、まだるっこしいからな!!」     「…その、お前の博士については、残念だったな」 「でも、安心すると良いからな!」 「……何、を」         「その     って  は       のこ    ろ?」         ………。   パース、どうした? そんな顔をして。   ゼ、ゼクター博士!? どうして……。   いやはや、こうしてお前と会話が出来ているということは、お前は『夢』を見れているようだな。   ……『夢』? ヒト特有のアレですか?   ああ、その通り。 アレはヒトなんかに良く見られる現象でな、『心』を持ったロボットにも同じような現象がみられたらしい。 ―今、こうしてな。   …でも、それっておかしくないですか? 何故僕の夢の中で、博士と僕が普通に会話をしているんです?   さあな。 それはまだ、お前にゃ教えられないことだ。   それに、博士はあの時死ん…。             「バーカ、勝手に人を殺すんじゃねぇよ」   「『俺』は永遠不滅だ、お前が生き続ける限りはな」   「…んじゃ、また『どこかで会おう』ぜ」   「博士!? そんな、折角会えたのに!! 博士!! 博士!!!」           ハカセ―――――――――――――――――――――――――――――――――――!!!!!!           ………。   お、やっと目ェ覚ましたか。 おーい、俺が見えるか?   ……何とかね。   そうかそうか。 『サイキドウ』っつーのはやたら負担がかかると聞いたが、これほどまでだとは思ってもみなかったからな。   ……すぐによくなるよ。   お前がそう言うんだったら平気そうだな。 しかし随分うなされてたじゃねぇか、夢でも見てたのか?   ……まさか、『ロボットが夢を見る』なんてあり得ないじゃないか。   …そうかい。 えーと、そういや名前を聞いてなかったからな。 お前の名前、なんていうんだ?   …"PSTシリーズ"1号機、戦闘汎用型ロボット。 コードネーム:『Persecutor』。           ―――『あの人から』貰った名前は、『パース』。           fin.